ツチダのエンピツ

ペンは剣より強いので

町一番の弁護士が町一番のタイピストでもあるとする

ツチダツルギは、小さなオフィスでOLをしている。

部長から「会議の資料をコピーして」などと頼まれたりする。

部数は多くない。小さなオフィスなので。

 

ある日の飲み会の席でのこと。

何でいちいちコピーをツチダに頼むのか。

自分でやった方が早いはずだ。

それぐらい自分でやればいいでしょう。

自分なら頼まれても自分でやればいいでしょうと突き返します。

と部長に面と向かって言った人がいた。

 

わたしとしても、こんな少ない部数ならわたしに何部コピーしてと頼むより自分でやった方が早いのではないかとは考えていた。

けれど、いくらお酒の席とは言え、上司の面目を潰すようなことを面と向かって言うのもいいことではない。

もし、それが業務の効率を下げていると考えるならお酒の入っていない業務時間内に言うべきです。

 

「本当は知っておいてもらいたい情報だけど、わたしのような下っ端の社員には公言できる段階ではない。そういう情報を、会議の資料を印刷させたりコピーさせるなどの雑務を頼むことにより内容に目を通させることができるでしょう。部長なりに深いお考えがあってのことです。決してご自分でコピーを取るのが面倒くさいとかそういうことではないのです」

と返した。

 

そうしたら部長は「ツチダさん」と握手を求めてきて「その通り、その通りだよ。ツチダさんならわかってくれると思ってた」と嬉しそうに言った。

部長に楯突いた人は「嘘つけ」「そんなわけない」と不満そうだったけれど。

 

以前、某ビジネス誌で読んだ記事に比較優位の法則というものがあった。

「町一番の弁護士が町一番のタイピストでもあるとする。この人物がタイピングよりも弁護士としての能力に優れている場合、弁護士の仕事に専念して、タイピングは秘書に任せるべきである。そうしれば2人とも、より高い報酬を得ることができる」

弁護士が、タイピングに費やしていた時間を弁護士としての仕事に充てられたらより高い報酬が得られるし、秘書は仕事を得られて報酬を得られる。2人ともハッピー!ってことです。

 

部長には、部長のお仕事に専念いただきたいものですし、それ以外の雑務を他に依頼したからと言って非難するようなこともよくない。

部長がコピーも電話番もできるからといって全部やったらわたしの仕事がなくなってしまうではないか。

 

それぐらい自分でやればいいと言うなら、それぐらい笑顔で引き受けてあげればいいのだ。

自分でやればと反発する方が労力を使うし、場の空気も悪くする。

余程重要で急ぎの仕事を抱えていたら笑顔で引き受けるわけにはいかないけれど。

 

難易度としては低い単純作業でも、時間を取られることだったら部下に頼む方がいい。

何でも自分でやろうとするのは、他人を信用できない人間のすることです。