歩行者用の信号が赤でも車が来なければ横断歩道を渡ってもよい
9月のことだったと思う。
防災訓練の一環で、駅前の道路の一部を通行止めにしてお巡りさんが車を誘導していた。
朝の通勤時間帯。お巡りさんがたくさんいた。
そんな中、歩行者用の信号が赤なのにも関わらず、横断歩道を渡った男性がいた。車は来ていなかった。
それに気付いた婦人警官が「信号赤ですよ、渡らないでください!」とよく通る声で注意をした。
男性は引き返さなかった。無視して進み続けた。
「信号赤ですよ!子供が真似しますよ!」と婦人警官は叫んだけれど、男性は涼しい顔で横断歩道を渡りきり、駅へ消えた。
イヤホンなどをしていて聞こえなかったのかもしれないし、聞こえていてもあえて無視したのかもしれない。
けれど、子供が真似しようがその人にはきっと関係のないことなのだろうなと思った。
「歩行者用の信号が赤でも車が来なければ横断歩道を渡ってもよい」と考えている人は、かなり多いようで、本屋でパラパラめくった本にさえ、そんな意見があった。
「歩行者用の信号が赤でも、左右を確認して車が来なければ横断歩道を渡ってもよい。車が来ないことがわかっているのに『ルールだから』と信号が変わるまで待つのは愚かだ」
とか、そんなようなことが書かれていたように思う。
信号は本来、歩行者と自動車、あるいは自動車と自動車が接触しないように設置されている物だから、接触する恐れがないなら守らなくていいという主張なのかな。
自動車がそんな理由で信号無視したら、違反で捕まってしまいます。
歩行者は罰則がないからしてもいいだろうという考えでしょうか。
罰せられなければ、ルールは破ってもよいのでしょうか。
わたしは歩行者用の信号が赤なら、車が来なくても信号が変わるまで待ちます。
そうして待っていると、信号を無視して歩いて行く人がたくさんいることに気付く。
それでもわたしは信号が変わるのを待つ。
理由は二つある。
どうして「歩行者用の信号が赤でも車が来なければ横断歩道を渡る」という選択をするのでしょう。
発車間際の電車に駆け込み乗車をする人も同じ種類の人間に見える。
急がないと遅刻するから?
待っている時間が無駄だから?
急いでいるからという理由で赤信号を無視して渡らないように、発車間際の電車に駆け込むようなことをしなくて済むように、
わたしは早く家を出る。
待っている時間が無駄だから、なんて。
そんなに急いでどこに行くの?
時間を切り詰めて切り詰めて、何をするの?
信号が変わるまでの数分を切り詰めて何ができるというの?
信号が赤なのに無理に渡って時間を節約するより、待つという行為をする方が心は豊かになると思う。
これが一つ目の理由。
二つ目の理由は、どんなに小さなことでも、ルールを破ると罪悪感が生じるから。
目先の利益を優先して、ルールを破ったりズルをすると、自分でも気付かないうちにもやもやしたものが心に積もる。
正しくないことをしていると知っているから。
だから、わたしは歩行者用の信号が赤なら車が来なくても横断歩道を渡らない。
正しいことをしていると、意外なほど気持ちがすっきりして幸福度が上がる。
でも、追っ手から逃れるために信号を無視することはあるかもしれません。
緊急時は何卒ご容赦ください。